試用期間の本採用見送りは不当解雇になる?適正な手続きと判断基準を解説

不採用の理由

「期待していた能力に及ばない」「遅刻が多く、周囲の士気が下がる」……。

高い採用コストをかけて入社した社員が、試用期間中に「自社には合わない」と判明してしまう。これは、採用に関わる方なら誰もが一度は直面する、胃が痛くなるような課題です。

その際、「試用期間中なんだから、本採用を見送る(辞めてもらう)のは企業の自由だろう」と考えるのは非常に危険です。実は、試用期間中の本採用見送りは、法的には「解雇」と同等の厳格な手続きと合理性が求められます。

判断を一つ誤れば、不当解雇として訴訟に発展したり、労働基準監督署の是正勧告を受けたりするだけでなく、SNSでの炎上や企業ブランドの毀損といった、数字では測れない甚大なダメージを受けるリスクを孕んでいます。

本記事では、企業が法的に正当な判断を下すための基準と、トラブルを未然に防ぐための実務フローを徹底解説します。

試用期間の本採用拒否は法的に認められるのか?「解雇」との違いを整理

まずは、試用期間という制度が法律上どのような位置づけにあるのか、正しく理解しましょう。ここを曖昧にしていると、労働者側からの反論に太刀打ちできません。

試用期間は「解約権留保付雇用契約」である

試用期間とは、企業が労働者の適格性(業務遂行能力、性格、健康状態、勤務態度など)を実際に働きながら評価し、もし問題がある場合には契約を解消できる権利を「留保」した状態の雇用契約です。法的には「解約権留保付雇用契約」と呼ばれます。

ここで最も重要なのは、「試用期間中であっても、入社したその日から有効な雇用契約が成立している」という事実です。

  • 労働法の適用: 労働基準法、労働契約法、最低賃金法などは、試用期間初日から100%適用されます。
  • 社会保険の加入: 健康保険や厚生年金、雇用保険も、試用期間中だからといって加入を遅らせることはできません。

つまり、「お試し期間」という言葉の響きから受けるような「いつでもキャンセルできる」といったカジュアルな契約ではないのです。

通常の解雇よりも広い範囲で認められるが無制限ではない

「試用期間中の本採用見送り」と「通常の正社員の解雇」では、どちらが認められやすいかといえば、答えは「試用期間中」です。この法的根拠となっているのが、昭和48年の「三菱樹脂事件(最高裁大法廷判決)」です。

三菱樹脂事件

試用期間中の解雇(本採用拒否)は、通常の解雇よりも広い範囲で認められる。ただし、それは「企業が採用決定時には知ることができなかった事実」に基づき、「本採用を拒否することが客観的に適当である」と認められる場合に限られる。

(出典:全基連 裁判例紹介)

判例が示しているのは、企業側の「採用の自由」の尊重です。しかし、同時に「自由勝手にクビにできるわけではない」という裁量の限界も示しています。有効とされるためには、客観的な合理性と社会的相当性が不可欠です。

  • 客観的合理性: 誰が見ても「その理由なら辞めてもらうのも仕方ない」という納得感があること。
  • 社会的相当性: 社会の常識に照らし合わせて、解雇という手段が過酷すぎないこと。

本採用見送りが無効とされるケース(典型例)

では、どのような場合に「無効(不当解雇)」とされるのでしょうか。具体例を見てみましょう。

  • 「採用時にわかっていたこと」を理由にする:
    面接の時点で「実務経験が1年しかない」とわかっていたのに、入社後に「経験不足だから」と本採用を見送ることはできません。これは企業の判断ミスであり、労働者に責任を転嫁するものとみなされます。
  • 指導や教育を全く行っていない:
    「仕事が遅い」と不満に思っていても、具体的な指導をせず、マニュアルも与えず、改善のチャンスを一度も与えずに期間終了を迎えた場合、企業側の「安全配慮義務・教育義務」の不履行を問われます。
  • 差別的な理由:
    性別、年齢、国籍、信仰、あるいは特定の思想を理由にすることは言語道断です。これらは憲法や男女雇用機会均等法、労働基準法第3条(均等待遇)に違反し、一発で無効となります。
  • 合理性を欠く理由:
    「なんとなく社風に合わない気がする」「上司との相性が悪い」といった主観的・感情的な理由は、客観的合理性があるとは認められません。

本採用見送りが認められる正当な理由と判断基準

不当解雇と言われないためには、具体的な「事実」と「証拠」の積み上げが必要です。以下の3つのケースについて、どのような条件が必要か整理します。

1. 能力不足・勤怠不良・経歴詐称の具体的条件

能力不足:特定の業務に必須のスキルが著しく欠如しており、研修や指導を行っても改善の見込みが全くない場合。
勤怠不良:正当な理由のない遅刻・欠勤が頻発し、注意を受けても改善されない場合。「1回の遅刻」では不十分ですが、繰り返される態度は強力な理由になります。
経歴詐称:「業務遂行や信頼関係に重大な影響を与えるか」が基準です。必要な免許を持っていないのに持っていると偽った場合などが該当します。

 

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2. 客観的合理性を証明するための証拠と記録

裁判や労働審判となった場合、企業側が最も「負ける」原因は、記録がないことです。口頭での注意は「言った・言わない」の泥沼になります。以下の内容を、必ず日付入りで残してください。

指導記録: 何月何日、誰が、どのようなミスに対し、どう指導したか。
本人の反応: 指導に対し、本人はどう答えたか(「頑張ります」と言ったのか、「納得できない」と言ったのか)。
改善計画書: 「いつまでに何を改善するか」を本人と合意し、署名をもらった文書。
メール・チャット業務指示や、期限を過ぎたことへの督促など。

記録の書き方例:
「202X年4月10日 15:00~15:30。上司A、人事B同席。佐藤さんに対し、顧客へのメール誤送信(BCC忘れ)が今月3件目であることを指摘。本人は『確認不足でした』と認め、明日から送信前に必ず上司のダブルチェックを受けるフローを遵守することを誓約した」

このような「具体的な事実の積み上げ」があって初めて、本採用見送りの正当性が認められます。

企業が本採用見送りを実施する際の法的手続きと注意点

いざ「見送る」と決めた際、法的な手続きを一つでも飛ばすと、それだけで「不当」とされるリスクがあります。

1. 解雇予告の要否判断(14日ルールと30日前通知)

ここが実務上の最大のポイントです。労働基準法第21条には、試用期間中の解雇に関する特例があります。

入社から14日以内:

解雇予告(30日前の通知)や解雇予告手当の支払いは不要です。即日解雇が可能です。ただし、「正当な理由」が必要なことに変わりはありません。

入社から15日目以降:

通常の解雇と同じルールが適用されます。つまり、以下のいずれかが必要です。
・30日以上前に予告する
・30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う

例えば、試用期間が3カ月で、2カ月経過した時点で「本採用しない」と決めた場合、即日辞めてもらうなら30日分の給料を余分に払わなければなりません。

2. 本採用見送り通知書の作成と記載必須項目

本採用見送りを通知する際、絶対に避けるべきなのは「口頭のみの説明」です。後になって「そんな理由は聞いていない」と主張された際、証拠がなければ企業は極めて不利になります。必ず書面(本採用見送り通知書)を作成し、交付してください。

通知書には、以下の項目を漏れなく記載します。これらは「法的な解雇の効力」を担保する項目と、「退職後のトラブル」を防ぐための実務項目のセットです。

本採用見送り通知書の記載必須チェックリスト

 □ 通知日  書面を作成・交付した日付
会社名・代表者印 誰が解雇を決定したのかを明確にする
 対象労働者の氏名 誰に向けた通知かを特定する
 解雇(本採用見送り)の日付  雇用契約が終了する最後の日
 具体的な理由  なぜ見送りになったのか。就業規則の第何条に該当するかも必ず明記します
 解雇予告手当の金額
(支払う場合)
 30日前の予告ができない場合に支払う金額
 最終出勤日  実際に仕事をする最終日
 備品の返却期限   パソコン、社員証、鍵などの返却スケジュール
 離職票等の発行予定日   社会保険の喪失手続きなどのスケジュール

3. 改善指導の記録と面談の進め方

面談は「通告の場」であると同時に、「最後の話し合いの場」です。

  • 二名体制での対応:記録役(人事)と説明役(上司)で出席し、言動に誤解がないようにします。
  • 労働者の言い分を聴取する:一方的に告げるのではなく、「なぜミスが続いたと思うか?」と問いかけ、本人の主張を記録します。これにより、「反論の機会を与えた」という事実が担保されます。
  • 再配置の検討:職種限定採用でない場合、他の部署(営業がダメなら事務など)への異動を検討したかどうかも、裁判では重視されます。「他の部署でも適性がないと判断した」というプロセスが重要です。

本採用見送りになった場合の離職事務と注意点

退職後の手続きでも、企業には誠実な対応が求められます。特に「離職理由」の記載には注意が必要です。

会社都合退職であれば、失業保険は待機期間の後すぐに受給できる

試用期間中の本採用見送りは、労働者の重大な責めに帰すべき理由(犯罪など)がない限り、原則として会社都合退職(特定受給資格者)として扱われます。

  • 待機期間:7日間のみ(自己都合の場合はさらに2~3ヶ月の制限期間がある)。
  • 給付日数:年齢や被保険者期間によって、自己都合より手厚くなることが多い。

人事がここで「自己都合にしてほしい」と労働者に頼み込み、無理に書類を書かせると、後にハローワークで労働者が「本当はクビだった」と異議を申し立てた際、企業側が「虚偽の記載をした」とみなされ、厳しいペナルティを受けることがあります。

離職票の記載内容は必ず確認し、必要なら異議申し立てをする

企業側は、離職票の「離職理由」欄に正確な事実を記載します。

  • 記載例:「試用期間満了に伴う本採用見送り(能力不足のため)」
  • 働者への確認:離職票を送付する際、「ハローワークでの判断になりますが、会社としてはこのように記載しました」と一言添えることで、後のトラブルを軽減できます。

もし労働者が離職理由に納得せず、ハローワークに異議を申し立てた場合、企業には資料提出が求められます。この時、先述した「改善指導の記録」や「通知書」が企業の身を守る盾となります。

まとめ:ミスマッチのない採用が最大の「リスク管理」

試用期間の本採用見送りは、法律的には非常に重い決断です。

  • 「14日以内」か「15日以降」かで手続きが劇的に変わる
  • 「客観的な事実」と「改善指導のプロセス」が有効性の鍵を握る
  • 安易な「自己都合」への誘導は後の大きなトラブルを生む

これらを守ることはもちろん大切ですが、人事担当者にとっての本当の成功は、「本採用見送りという事態を発生させないこと」にあります。

事後の法的対応に追われる時間は、本来なら「攻めの人事」に充てるべき貴重なリソースです。入り口での採用ミスマッチを最小限に抑えるためには、自社の魅力を正しく伝え、一方で仕事の厳しさも隠さず伝える「リアルな採用」が必要です。

ヒトキタを運営する北海道アルバイト情報社は、北海道という土地に根差し、企業の本当の強みを引き出す採用支援を得意としています。
「いつも試用期間で辞めてしまう人が多い」「自社に合う人の見極め方がわからない」とお悩みの際は、法的リスクを負う前に、ぜひ一度ご相談ください。ミスマッチのない、納得感のある採用活動を共に実現しましょう。

【出典・参照】
労働基準法(e-Gov法令検索)
厚生労働省 労働基準判例検索システム「三菱樹脂事件」
ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者について」

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Writer

ヒトキタ編集部 友坂 智奈


Profile

法人営業や編集職を経て、広報を担当。現在は、SNSや自社サイトの運用をはじめ、イベントやメルマガを活用した販促・営業支援企画も手掛けている。

【免責事項】
本記事は2026年時点の労働関係法令および一般的判例に基づき執筆したものであり、個別の事案に対する法的助言を目的としたものではありません。実際の対応に当たっては、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談されることを強くお勧めします。