
応募者の身元や資格を確実に把握したいという思いから、「面接の時点で運転免許証のコピーを提出してもらおう」「念のため健康診断書も持ってきてもらおう」と考えてはいませんか?
実はそれ、大きなトラブルや「就職差別」につながるNG行為かもしれません。
近年、応募者の基本的人権を尊重する気運が社会全体で非常に高まっています。求職者自身も「この企業はジェンダーや出生地、家庭環境による就職差別をしていないか」「コンプライアンス意識は適切か」を、応募書類や面接での質問を通じて敏感にチェックする時代です。SNSなどで「不適切な書類提出を求められた」と発信されれば、企業ブランド(採用ブランド)に致命的なダメージを与えかねません。
本記事では、採用の応募や面接時に「提出を求めてはいけない書類(NG書類)」と「好ましくない書類」について、厚生労働省のガイドラインに基づき分かりやすく解説します。
「なぜダメなのか」という明確な判断基準と、明日から実践できる「正しい対応方法」をマスターし、求職者から信頼される公正な採用活動を実現しましょう!
目次
応募者の「運転免許証」確認はNG?フックとなる落とし穴
採用活動において、「本人確認のため」「要普通免許の求人だから、本当に免許を持っているか確認するため」という理由で、応募時や面接時に運転免許証の提示やコピーの提出を求めるケースは少なくありません。これまで慣例的に行ってきた企業も多いのではないでしょうか。
しかし結論から言うと、応募や面接の段階で運転免許証の提出・提示を求めるのは「好ましくない」とされています。
理由は大きく2つあります。
1.本籍地(出生地)の把握につながるおそれがあるため
運転免許証には、かつて表面に「本籍地」が記載されていました。現在はプライバシー保護の観点からICチップ内に記録され、表面からは見えなくなっていますが、本籍地は「就職差別」において最もセンシティブな情報のひとつです。身分証明書として安易に提出を求める行為自体が、求職者に「身元調査をされるのではないか」という不信感を与えてしまいます。
2.面接時点では「確認する必要性」が薄いため
応募条件に「普通自動車免許必須」とある場合でも、面接時点では履歴書の資格欄の記載や、口頭での確認にとどめるのが原則です。実際に免許証の原本を確認するのは、「採用内定後」や「入社手続き時」で全く問題ありません。
このように、良かれと思って(あるいは単なる確認作業として)求めている書類が、実は求職者の権利を侵害し、企業のコンプライアンスリスクを高めている可能性があります。ここからは、具体的にどのような書類がNGなのか、さらに詳しく見ていきましょう。
提出を求めるのが「絶対にNG」な書類
応募・面接時に提出を求めることが明確に「就職差別」につながるとされ、禁止されている書類を解説します。これらは、企業のブランドイメージを著しく損なうだけでなく、行政指導の対象にもなり得るものです。
住民票
本籍地や世帯主、家族構成などが記載されており、個人のプライバシーに深く関わります。
戸籍謄本(戸籍抄本)
出生地、家柄、家族の動静など、本人の能力とは一切関係のない情報が含まれます。
現住所の略図(自宅周辺の地図など)
自宅周辺の環境や住宅の状況を確認することは、不当な身元調査につながるおそれがあります。
【解説:なぜこれらがダメなのか?】
これらの書類には、応募者の「適性や能力」とは全く関係のない、個人的な情報(出生地、家族構成、住宅状況、生活環境など)が詳細に記載されています。
日本の採用活動には、過去に「同和地区出身者」や「特定の地域出身者」を排除するためにこれらの書類が悪用された痛ましい歴史があります。そのため、厚生労働省は「公正な採用選考 の基本」として、本人に責任のない事項(出生地、家族等)や本来自由であるべき事項(思想、宗教等)を把握しようとすることを厳しく禁じています。
また、「現住所の略図」についても、通勤経路の確認という名目であっても、自宅周辺の環境や住宅状況(持ち家か賃貸か、どのような地域に住んでいるか)を企業が把握することは、応募者の適性判断には不要です。敏感な求職者には「家柄や生活水準で合否を判断されるのでは」「身辺調査に使われるのでは」という強い恐怖心と不信感を与えてしまいます。通勤交通費の計算などが必要な場合も、最寄り駅やバス停の申告のみで十分に対応可能です。
面接時に提出を求めるのが「好ましくない」書類
絶対にNGというわけではないものの、「面接の時点」で提出を求めるのは望ましくない書類をご紹介します。これらの書類は、業務上必要であれば「採用内定後」または「入社時」に提出を求めるのが正しい運用です。
健康診断書
「健康状態を知りたい」というのは企業の本音でしょう。しかし、応募者は「血液型や、業務に関係のない持病で採否を判断されたのではないか」と疑念を抱く可能性があります。企業側は「入社後の健康管理のため」という目的であっても、選考段階で健康状態を詳細に把握することは、就職差別につながるリスクがあります。
※特例として、運転業務や高所作業など、安全確保のために特定の疾患の有無を確認しなければならない場合は、事前に説明し同意を得た上で行う必要があります。
卒業証明書・成績証明書
学歴詐称を防ぐために必要ですが、面接段階では「履歴書の記載内容」と「口頭での確認」を信頼して選考を進めるのが原則です。特に成績証明書については、個人の学習履歴というプライバシーに関わるため、選考に直結する場合(研究職など)を除き、慎重に扱うべきです。
運転記録証明書
過去1~5年の交通違反や事故履歴・点数の確認をするなど、営業職や配送職で確認したい項目ですが、これも選考段階で全員に求めるのは不適切です。まずは本人の自己申告を信じ、最終候補者に残った段階、あるいは内定後に提出を依頼しましょう。
障がい者手帳
障がい者雇用枠での応募であっても、面接での提示を強要することは望ましくありません。口頭での確認や、どのような配慮が必要かのヒアリングに留め、手帳のコピー提出は採用内定後に実施してください。
なぜNG?「公正な採用選考」の判断基準と基本原則
ここまで「NGな書類」「好ましくない書類」を挙げてきましたが、その根本的な判断基準はどこにあるのでしょうか。
厚生労働省では、企業が行うべき「公正な採用選考」を提唱しており、以下の2つの基本原則を広く周知しています。
1. 応募者の基本的人権を尊重すること
採用選考は、応募者の基本的人権を侵してはならないという大前提があります。人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地(出生地)、障がい、性的指向や性自認などによって差別されることなく、誰もが等しく職業選択の自由を保障されなければなりません。
書類の提出によって、結果的にこれらの情報を企業側が知り得る状況を作ってしまうことは、この原則に反することになります。
2. 応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと
採用選考にあたっては、その人の「職務遂行上必要な適性や能力」のみを基準として合否を決定する必要があります。
言い換えれば、「本人の努力ではどうにもならない事柄(出生地や家族など)」や「本来自由であるべき事柄(宗教、支持政党、思想など)」を採否の判断基準にしてはいけないということです。
この2つの観点から紐解くと、「住民票」や「健康診断書」の提出がなぜ好ましくないのかが明確に理解できます。
- 出生地や家族構成(住民票・戸籍謄本など):
本人の適性・能力とは無関係であり、本人の努力で変えられるものではありません。 - 健康状態(健康診断書など):
業務遂行に直接関係のない健康情報(例えば事務職における軽度の色覚異常など)で不採用にすることは、能力以外の基準による差別となります。
人事担当者はどう対応すべき?正しい選考プロセス
では、応募者の資格や身元を適切に確認しつつ、公正な採用選考を行うためには、人事・採用担当者はどのように対応すれば良いのでしょうか。具体的なアクションプランを解説します。
対応の基本は「面接時は口頭確認、書類提出は内定後」
応募者に求める書類は、原則として「応募者の適性・能力のみ」が判断できるもの(履歴書、職務経歴書、ポートフォリオなど)に限定しましょう。
応募資格(特定の免許や学歴)を満たしているかどうかは、面接や面談の時点で「履歴書の記載に間違いはありませんね?」「〇〇の資格はお持ちですね?」と口頭で確認するにとどめます。
そして、選考を通過し「採用内定」を出した後に、初めて内定承諾の必要書類として「運転免許証のコピー」「卒業証明書」「健康診断書」などの提出を求めるのが正しいプロセスです。この段階であれば、すでに適性・能力での評価は終わっているため、就職差別の疑いをかけられることはありません。万が一、内定後の書類提出で履歴書の虚偽記載(経歴詐称や資格の未取得)が発覚した場合は、就業規則や内定通知書の規定に基づき、内定取り消しなどの対応を検討することになります。

例外的なケース:業務上、どうしても事前に確認が必要な場合
基本原則は上記の通りですが、特定の業務においては例外的に、選考段階で健康状態や運転履歴の確認が必要になるケースがあります。
例えば、「長距離トラックのドライバー」や「クレーン車の運転手」などの運転業務・危険を伴う業務の募集において、過去に重大な事故歴がないか、あるいは運転中に意識を失うような疾患(てんかん等の発作)のリスクがないかを確認することは、安全配慮義務の観点から企業として当然の対応です。
このような場合は、以下の手順を踏むことで適法かつ誠実な対応が可能になります。
1.求人票や募集要項にあらかじめ明記する
「業務の性質上、安全確保を目的として、面接時に〇〇に関する健康状態の確認シートをご記入いただきます」など、事前に情報を公開します。
2.面接時に目的を丁寧に説明し、同意を得る
「当社では〇〇の業務をお任せするため、どうしても△△の確認が必要となります。採用選考の目的以外には決して使用しませんので、ご提出(ご回答)いただいてもよろしいでしょうか」と、必ず本人の理解と同意(コンセント)を得た上で実施します。
3.必要最小限の情報のみを取得する
健康診断書を丸ごと提出させるのではなく、「運転業務に支障をきたす可能性のある特定の疾患の有無」のみを問う自社独自のアンケートを用意するなど、必要以上の個人情報を取得しない工夫が重要です。
自社の採用フローを見直すためのチェックリスト
最後に、自社の採用活動が「公正な採用選考」の基準を満たしているかを確認するための、簡単なセルフチェックリストをご用意しました。人事部門内でぜひご活用ください。
| □ | 応募時に「運転免許証のコピー」や「住民票」の提出を求めていないか。 |
| □ | エントリーシートや自社指定の履歴書に「本籍地」「家族の職業」「宗教・支持政党」を記入する欄はないか。 |
| □ | 面接で「ご両親はどんなお仕事をされていますか?」「ご自宅は持ち家ですか?」「愛読書は何ですか?」といった、適性に関係のない質問をしていないか。 |
| □ | 資格の証明書や健康診断書は、「採用内定後」に提出を求めるフローになっているか。 |
| □ | (例外的に書類が必要な場合)求人票への明記と、応募者への丁寧な目的説明・同意取得が徹底されているか。 |
| □ | 面接官全員に対し、「公正な採用選考」に関する社内研修や周知を実施しているか。 |
まとめ:時代に合ったアップデートで「選ばれる企業」へ
本記事では、採用活動において提出を求めてはいけない書類と、好ましくない書類について、その理由と正しい対応方法を解説しました。
「これまでずっとこのやり方でやってきたから」「特に悪気はないし、ただの確認だから」という理由で、慣例的に書類の提出を求めている企業は意外と多いものです。しかし、今回解説したような「就職差別」に対するリテラシーは、求職者側の方が企業側よりも敏感にアップデートされていることが少なくありません。
「この会社は、面接でいきなり免許証のコピーを出せと言ってきた。プライバシーの意識が低そうだ」と求職者に見限られてしまえば、せっかくの優秀な人材を逃すだけでなく、企業の採用力低下に直結します。
逆に言えば、「応募書類は必要最小限にし、内定後に確認する」「質問の意図を丁寧に説明する」といった誠実な対応を徹底することで、「コンプライアンス意識が高く、従業員を大切にするクリーンな企業」という強力なアピールになります。
自社が求める書類は、本当に「応募者の適性・能力」を判断するために今すぐ必要なものなのか?
この機会にぜひ一度、採用プロセス全体を見直してみてください。公正で透明性の高い採用活動は、結果として、企業と応募者双方にとって最も良いご縁をもたらしてくれるはずです。
「自社の採用フローが適切か不安」「求人用の書き方で迷っている」……そんな時は、ぜひプロにご相談ください。
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Writer
ヒトキタ編集部 友坂 智奈
Profile
法人営業や編集職を経て、広報を担当。現在は、SNSや自社サイトの運用をはじめ、イベントやメルマガを活用した販促・営業支援企画も手掛けている。