
「責任が軽いから」「昔からの慣習だから」……そんな理由で、パートさんの待遇を正社員より低く据え置いたままにしていませんか?
労働力不足が深刻化する今、パート・アルバイトや契約社員といった非正規雇用の方々は、単なる「補助」ではなく、企業の運営を支える「主軸の戦力」です。特に北海道の現場においては、彼らの力がなければ事業継続すら危うい場合も多いのが現実ではないでしょうか。
しかし、現場での依存度が高まる一方で、処遇に対する「納得感」が追いついていないケースが目立ちます。2020年に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」は、数年が経過した今、もはや「知らなかった」では済まされないフェーズに入りました。
最低賃金の大幅な引き上げや「年収の壁」への関心が高まる中、不合理な待遇差を放置することは、法的なリスクを抱えるだけでなく、優秀な人材を競合他社へ流出させる「決定的な引き金」にもなりかねません。
単なる法令遵守(コンプライアンス)の確認を超えて、これからの時代に「選ばれる企業」であり続けるために。人事担当者が今すぐ見直すべき実務の急所を、徹底解説します。
目次
不合理な待遇差を禁止する「パートタイム・有期雇用労働法」
「同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)」とは、同一企業内において、正社員と非正規雇用者(パート・契約社員等)との間で、基本給や賞与、各種手当などのあらゆる待遇について「不合理な格差」を設けることを禁止する法律です。
職務内容や責任の程度が同じであれば、雇用形態を理由とした差別は許されません。不透明な処遇を是正し、誰もが納得感を持って働ける環境を整えることが、企業側に強く求められています。
【なぜこの法律が必要なのか】
非正規雇用だからという理由だけで待遇を低く抑えることは、労働者のモチベーションを低下させるだけでなく、将来的なキャリア形成の機会を奪うことにも繋がります。国はこの格差を解消することで、誰もが意欲を持って働ける環境を整え、労働生産性を向上させることを狙っています。
「同じ仕事」かどうかを判断する3つの基準
「うちのパートさんは正社員とは違うから大丈夫」と主観的に判断するのは危険です。裁判例やガイドラインでは、以下の3つの基準を総合的に判断します。
(1) 職務の内容(業務の内容+責任の程度)
担当している業務が同じかどうか、また、その業務に伴う責任(トラブル対応の有無、ノルマの有無、部下の指導の有無など)が同じかどうかを指します。
(2) 職務の内容・配置の変更の範囲(人事異動の範囲)
将来的に転勤があるか、部署異動があるか、またその範囲が正社員と同じかどうかです。
(3)その他の事情
経験、能力、勤続年数、職績などが含まれます。
これら3つがすべて同じである場合(「職務等乖離(かいり)がない」状態)、待遇を差別することは完全に禁止されます(差別的取扱いの禁止)。また、一部に違いがある場合でも、その違いに応じてバランスの取れた処遇をしなければなりません(不合理な待遇差の禁止)。
放置は厳禁!「罰則がないから大丈夫」が通用しない3つのリスク
この法律には、懲役や罰金といった直接的な刑事罰はありません。しかし、後回しにすると「刑事罰より恐ろしいリスク」に直面します。
●企業名の公表:採用・ブランドへの大打撃
是正勧告に従わない場合、社名が公表される可能性があります。「不当な格差を認める企業」というレッテルは、採用や取引に致命的なダメージを与えます。
●損害賠償:過去に遡る巨額の支払い
従業員から提訴され「不当な格差」と認められれば、過去数年分の賃金差額や慰謝料の支払いを命じられます。対象人数が多いほど、経営を揺るがす金額に膨れ上がります。
●説明義務違反:行政指導の対象に
「パートだから」と説明を拒むだけで法違反です。改善が見られなければ行政指導の対象となり、労働局への虚偽報告には「10万円以下の過料」も科せられます。
「罰金がない=守らなくていい」ではなく、「放置すれば経営基盤を損なう」という認識が必要です。
人事担当者が注意すべき「手当・福利厚生」の盲点
多くの企業が基本給の差については「役割が違うから」と説明を用意していますが、実は「手当」や「福利厚生」で足元をすくわれるケースが多々あります。
●通勤手当・出張旅費
通勤にかかるコストや移動の負担は、雇用形態によって変わるものではありません。正社員には全額支給し、パートタイマーには一律数千円、あるいは支給なしとしている場合、これは「不合理」と判断される可能性が極めて高いです。
●食事手当・慶弔見舞金
「食事」という福利厚生の目的を考えれば、雇用形態による差をつける合理性は乏しいとされます。また、慶弔休暇や見舞金も、勤務実態に応じた比例付与(週3日勤務なら日数を調整するなど)は認められますが、「支給ゼロ」はリスクとなります。
●賞与(ボーナス)
「正社員は責任が重いからボーナスを出すが、パートには一切出さない」という運用は、今や見直しの対象です。職務内容に違いがあるなら、その違いに見合った額(例えば正社員の○割など)を支給する、あるいは寸志として支給するなど、何らかのバランスを考慮する必要があります。
2024年以降、さらに重要になる「説明義務」
本法律の大きな特徴の一つが、従業員から求められた際、会社側には「処遇の差の内容と理由」を説明する義務がある点です。
「正社員だから」「昔からの慣習だから」という回答は、法律上の説明義務を果たしたことにはなりません。
「正社員にはこういう役割と責任があり、それに対してこの手当を支給している」
「パートの方にはこの範囲の業務をお願いしており、その違いからこう算出している」
という論理的な説明が必要です。
また、この説明を求めたことを理由に、契約更新を拒否したり、不利益な配置換えをしたりすることは厳格に禁じられています。
実務で使える!「待遇差チェック」の4ステップ
人事担当者が今すぐ取り組むべき実務フローを整理します。
ステップ1:現状の把握(見える化)
まず、自社の雇用形態ごとの賃金表、諸手当、福利厚生の一覧を作成します。正社員にはあるが、有期・パートにはない項目を洗い出しましょう。
ステップ2:業務内容の再定義
正社員と非正規の方の業務の境界線を明確にします。
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トラブル発生時、誰が決裁権を持つか?
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教育・指導の役割を担っているのは誰か?
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突発的な残業や休日出勤の要請に応じる義務があるのは誰か?
ステップ3:待遇差の理由付け(合理的説明の準備)
ステップ1で洗い出した「差」について、ステップ2の「違い」に基づいて説明がつくか検討します。説明がつかない項目は、待遇を合わせるか、業務範囲を調整する必要があります。
ステップ4:就業規則の改定と周知
ルールを明確にしたら、就業規則や雇用契約書をアップデートします。同時に、現場の店長やマネージャー層にもこの考え方を浸透させることが重要です。現場での何気ない「パートだから当たり前」という発言が、トラブルの火種になるからです。
まとめ:コンプライアンスを超えた「採用戦略」として
「パートタイム・有期雇用労働法」への対応は、単なる法的リスクへの対策ではありません。
今、労働市場はかつてないほどの売り手市場です。特に北海道では、最低賃金の引き上げに伴い、時給1円の差や、手当の有無、働きやすさが「選ばれる理由」に直結します。「正社員と同じくらい頑張っているのに、手当がつかない」という不満は、優秀なスタッフの離職を招くだけでなく、SNS等を通じた「ネガティブな口コミ」として採用活動に悪影響を及ぼす時代です。
適切な待遇改善を行うことは、短期的には人件費の上昇を招くかもしれません。しかし、従業員の満足度が高まることで、離職率が下がり、採用コストが削減され、最終的にはサービス品質の向上という形で自社に還元されます。
「その仕事、パートさんに頼んで大丈夫?」という問いかけを、ぜひ「パートさんがこの会社でずっと働きたいと思える環境か?」という視点に置き換え、自社の制度を見直してみてください。大切な従業員の意欲を最大化することこそが、これからの人事担当者に求められる最大のミッションです。
Writer
ヒトキタ編集部 山本 祥子
Profile
コンテンツメディア部にてユーザー向け施策の企画・サイト運営に従事。フリーペーパー編集などを手掛け、現在は広報・販促・営業支援・デザインを行う。