育児介護休業法とは?制度の基本と2025年改正ポイントをわかりやすく解説

近年、労働者のライフスタイルや家族形態は多様化の一途を辿っています。企業が優秀な人材を確保し、長期にわたって活躍してもらうためには、仕事と家庭を両立できる環境づくりが不可欠です。その中核をなす法律が「育児介護休業法」です。

育児介護休業法とは、育児や介護を行う労働者が仕事を辞めることなく、キャリアを継続できるように、育児休業や介護休業、短時間勤務などの制度を企業に義務づけた法律です。

この法律は社会情勢に合わせて頻繁に見直しが行われており、直近では、2024年5月に成立した改正法が、2025年4月と10月に段階的に施行されました。2026年7月現在、改正内容は全面施行済みです。この記事では、法律の基本から2025年改正のポイント、企業の実務対応までを体系的に解説します。

目次

育児介護休業法の概要と制定の背景

「育児介護休業法」という名前はおなじみですが、実はとっても長い正式名称があるのをご存じでしょうか。正しくは「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。

この法律の一番の目的は、育児や家族の介護を行う労働者のみなさんが、仕事と家庭をきちんと両立できるように支えることです。そして、大切なキャリアを途絶えさせることなく、安心して働き続けられる環境(雇用の継続促進)をつくるために定められています。

少し歴史を振り返ってみましょう。
もともとは1991年に「育児休業法」としてスタートしました。当時は女性の社会進出に伴う少子化対策や、仕事と子育ての両立が主なテーマでしたが、その後、高齢化社会の足音が聞こえ始めた1995年に、家族を介護するための「介護休業」が追加され、現在の名称になりました。それからも、共働き世帯の増加や男性の育児参画など、時代の変化に合わせて何度もアップデートを重ねて今日に至っています。

国がこれほどまでに法整備を急ぎ、企業に両立支援を求めるのには、とても深刻な背景があります。

まず「介護」の面を見てみましょう。総務省の「令和4年就業構造基本調査」によると、なんと年間約10万6000人もの方々が、家族の介護や看護を理由に仕事を辞めている(介護離職)というデータがあります。介護に直面しやすい40代から50代といえば、社内では管理職やチームの中核を担う、もっとも頼れるベテラン層。こうした優秀な人材が突然いなくなってしまうことは、企業にとって業務が滞るだけでなく、長年培ったノウハウが流出するという非常に大きな痛手になります。介護離職の防止は、いまや企業にとって喫緊の経営課題なのです。

次に「育児」の面。厚生労働省の「令和6年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は40.5%となり、過去最高を記録しました。「男性も育休を取るのが当たり前」という空気は確実に広まっていますが、政府が目標として掲げていた「2025年度までに50%」という数字にはまだ届いていません。そのため、より育休を取りやすい雰囲気を作ったり、復帰後も柔軟に働ける仕組みを整えたりすることが、これまで以上に求められています。

育児介護休業法は、単に「従業員に休みをあげるための法律」ではありません。企業がこれからの深刻な労働力不足を生き抜き、優秀な人材に「この会社でずっと働きたい」と思ってもらうための、大切な道標(みちしるべ)なのです。

育児介護休業法の主な制度

育児介護休業法には、労働者が仕事と家庭を両立できるよう、さまざまな制度が組み合わされて体系的に整備されています。人事担当者としてまず押さえておきたいのは、法律が定めている「育児に関する5つの制度」と「介護に関する4つの制度」の基本です。

それぞれの対象者や期間、日数などのポイントを、専門用語を噛み砕きながら分かりやすく整理していきます。なお、ここでは実務の全体像を把握しやすいよう、詳細な給付金の計算や申請手続きはいったん脇に置いて、基本的な取得条件に絞って解説します。

育児に関する5つの制度

子どもが生まれてから大きくなるまで、親が直面する課題は時期によって変わります。法律では、子どもの成長段階に応じて柔軟に使い分けられるよう、以下の5つの制度が用意されています。

育児休業

原則として、子どもが1歳(保育園に入れないなどの特別な理由がある場合は最長2歳まで)になるまでの間、仕事を休むことができる制度です。性別に関係なく、父親も母親も利用できます。

「うちのパートさんや契約社員さんは取れるのかな?」と疑問に思う方もいるかもしれません。以前は「1年以上働いていること」という条件がありましたが、2022年の法改正でその縛りはなくなりました。現在は、「子どもが1歳6ヶ月になるまでに、労働契約が終わることが明らかでないこと」という条件だけになっています。つまり、契約更新の見込みがある有期雇用労働者であれば、パートやアルバイトであっても原則として育児休業を取得できるケースがほとんどです。

産後パパ育休(出生時育児休業)

2022年10月に新しくスタートした、比較的新しいタイプの休業制度です。子どもの出生後8週間以内に、最大で4週間(28日)まで取得できます。

通常の育児休業との違いで一番のポイントは、「2回に分けて分割取得ができること」と「労使協定を結んでいれば、休業中であっても一定の範囲内で少しだけ仕事をすることができること」です。「母親の退院直後と、その後のバタバタする時期に分けて2週間ずつ取る」といった柔軟な使い方ができるため、男性の育休スタートのきっかけとして非常に使いやすい制度になっています。

子の看護等休暇

小学校3年生修了までの子どもを育てている労働者が、子どもの病気やけがの看病、あるいは予防接種や健康診断の付き添いのために仕事を休める制度です。

もらえる日数は、子どもが1人の場合は年間で5日まで、2人以上の場合は年間で10日までとなっています。まとまった休みだけでなく、「午前中だけ病院に連れていきたい」という時のために、時間単位での取得もできるよう義務づけられています。

短時間勤務制度

3歳未満の小さなお子さんを育てる労働者のために、企業が必ず用意しなければならない制度です。法律では、1日の所定労働時間を「原則として6時間」に短縮できる短時間勤務制度を設けることが、事業主(会社)の義務とされています。フルタイムでの復職が難しい時期を、この制度で乗り切る従業員の方はとても多いです。

所定外労働の制限(残業免除)

これも3歳未満の子どもを養育する労働者が対象です。本人が「残業はできません」と会社に請求した場合、契約で決められた労働時間を超えて働かせてはならない(残業を免除しなければならない)とする制度。定時で確実にお迎えに行かなければならない親御さんを守るための、大切なセーフティネットになっています。

介護に関する4つの制度

介護に関する制度を見る時に、とても大切な心構えがあります。それは、これらの制度が「労働者自身がつきっきりで介護をするため」のものではなく、「仕事と介護を両立するための体制(ケアマネジャーとの話し合いや、介護施設の手配など)を整えるため」の期間として作られている、ということです。

対象となる「家族」の範囲は広く、配偶者(事実婚も含みます)、父母、子ども、配偶者の父母(義理の父母)、祖父母、兄弟姉妹、そして孫までが含まれます。

介護休業

対象となる家族1人につき、常時介護が必要な状態(要介護状態)になるごとに、通算して「93日まで」仕事を休むことができる制度です。

この93日は、「3回まで分割して取得」することができます。「初期の要介護認定の手続きやケアマネジャーとの調整で1か月使い、その後に症状が進行して施設を探すために2回目を使う」といったように、介護のフェーズに合わせて細かく使えるのがメリットです。パートなどの有期雇用労働者の場合は、育休と同じように「取得予定日から93日経ったあとも、契約が続く見込みがあること」などが条件となります。

介護休暇

要介護状態にある家族の介護や、通院の付き添い、ケアマネジャーとの面談などのために、単発で休みを取れる制度です。

日数は家族1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日までで、こちらも時間単位での取得が可能です。長期でしっかり休む「介護休業」に対して、こちらは「今日だけ突発的に付き添いが必要になった」という時に使う、短期・単発の休暇という位置づけです。

短時間勤務制度等

家族の介護を行う労働者のために、会社は「短時間勤務」「フレックスタイム制」「時差出勤」「会社独自の介護費用補助」などのうち、いずれかの措置を必ず導入しなければなりません。従業員は、利用を始めてから3年の間で「2回以上」利用できる環境が法律で保障されています。

所定外労働の制限

対象家族を介護する労働者が請求した場合、会社は所定労働時間を超える労働(残業)をさせてはならないとする制度です。介護は終わりが見えにくく長期化しがちですから、日々の残業を免除して体力を温存し、仕事との両立を続けるためにとても重要な役割を果たしています。

2025年改正の3つの柱

2024年5月に成立した改正法は、2025年4月と10月の2つのステップで施行されました。2026年7月現在、すべての内容が全面施行され、すでに「現行法」として私たちの実務の中に組み込まれています。現在はすべて義務、または努力義務として稼働していますので注意してくださいね。

厚生労働省の資料で整理されている「3つの柱」に沿って、何がどう変わったのかを詳しく見ていきましょう。

1. 子の年齢に応じた柔軟な働き方措置の拡充

最初の柱は、子どもが少し大きくなった時期に直面する「両立の壁」を崩すための、働き方の選択肢を広げる取り組みです。これまで手薄だった「3歳から小学校就学前、そして小学校低学年」の時期のサポートがぐっと手厚くなりました。

子の看護等休暇の対象拡大と名称変更

これまでは「子の看護休暇」という名前で、小学校に上がる前の子どもまでが対象で、理由も「病気やけがの看病、予防接種」などに限られていました。

現行法では、名前が「子の看護等休暇」に変わり、対象が「小学校3年生修了まで」へと大幅に広がりました。さらに、休みを取れる理由として「インフルエンザなどによる学級閉鎖」や、「入園式・卒園式、入学式などの学校行事への参加」も新しく認められるようになりました。

また、これまでは労使協定(会社と労働者の代表との約束事)を結べば「入社6ヶ月未満のスタッフ」を対象外にできましたが、この仕組みが撤廃されました。入社したばかりのパートさんでも、子どもの学級閉鎖の時にはこの休暇を使えるようになっています。

所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大

これまで「3歳未満の子ども」を育てる労働者が対象だった残業免除の請求権が、「小学校就学前(6歳になる年度の3月末まで)の子ども」を育てる労働者にまで拡大されました。保育園の送り迎えや、夕方の突発的なトラブルが多い就学前の時期に、「法律に基づいて残業を断れる」ようになったのは、働く親にとって大きな安心感に繋がっています。

テレワーク導入の努力義務化

3歳未満の小さな子どもを育てる労働者に対して、会社が「テレワーク(在宅勤務など)」を選択肢として選べるように配慮することが、事業主の努力義務(必ずやらなければ罰則があるわけではないが、進めるように努めるべきこと)になりました。育児をしながら自宅で働ける環境は、離職を防ぐための強力な武器になるため、積極的な導入が期待されています。

3歳〜就学前の子を持つ労働者への柔軟な働き方措置

2025年10月に施行された、今回の改正で最も注目されたポイントです。会社は、3歳から小学校に上がる前までの子どもを育てる従業員のために、以下の5つのメニューの中から「2つ以上の制度」をあらかじめ選んで導入し、従業員が選んで使えるようにすることが義務づけられました。

  1. 始業時刻などの変更(フレックスタイム制、時差出勤など)
  2. テレワーク等(在宅勤務など)
  3. 短時間勤務制度(勤務時間を短くする)
  4. 新たな休暇の付与(会社独自の育児目的の休みなど)
  5. 園児向けの保育施設の設置・運営や、それに準ずるサポート

会社側は、自社の仕事の進め方に合わせてメニューを選び、就業規則に落とし込んでおく必要があります。

2. 育児休業取得状況の公表義務の拡大

2つ目の柱は、会社の中で「どれくらい育休が取られているか」を世の中にオープンにして、社会全体で取得を後押ししようという仕組みです。

これまでは、男性の育休取得率などを公表しなければならないのは「社員数が1000人を超える大企業」だけでした。しかし現行法では、この対象が「常時雇用する労働者が300人を超える企業」へと一気に拡大されました。

公表する内容は、以下のどちらかの割合(パーセンテージ)です。
・「男性労働者の育児休業などの取得率」
・「男性労働者の育児休業など + 育児目的休暇の取得率」


公表のタイミングは「毎年1回、前の事業年度が終わってからおおむね3か月以内」です。自社のホームページや、厚生労働省のポータルサイト「両立支援のひろば」などに掲載して、就職活動中の学生や求職者がいつでも見られるようにしておく必要があります。

男性の育休取得率は40.5%(令和6年度)と伸びていますが、政府はさらに高い目標(2025年度に50%、2030年度に85%)を掲げています。300人超の中堅企業も公表が義務化されたことで、「あの会社は男性も育休が取りやすいんだな」という評価が、採用活動の成否を分ける時代になってきています。

3. 介護離職防止のための両立支援制度の強化

3つ目の柱は、会社にとって頭の痛い問題である「介護離職」に先手を打つための対策です。介護は育児と違い、「いつ始まるか予測がつかない」「周りに相談しづらく、一人で抱え込んでしまいがち」という特徴があります。だからこそ、会社側から積極的にアプローチしていく仕組みが作られました。

個別の周知と意向確認の義務化

従業員から「実は家族の介護が始まりそうで……」といった相談や申出があった場合、会社はその従業員に対して、自社の介護休業制度や両立支援の仕組みを「個別に説明(周知)し、制度を使いたいかどうかの意向を直接確認すること」が義務づけられました。

育児の場面ではすでに義務化されていましたが、それが介護にも広がった形で。面談をしたり、書面やメールで案内を送るなど、「休みづらい雰囲気」を作らないように確認を進める必要があります。

雇用環境整備の義務化

介護に直面した従業員が、気兼ねなく制度を申し出られるよう、社内の環境を整えることも義務化されました。会社は以下のメニューから、少なくとも1つ以上を実施しなければなりません。

  • 全従業員や管理職を対象にした、介護両立支援に関する「研修の実施」
  • 困ったときにいつでも相談できる「相談窓口(担当者)の設置」
  • 両立支援制度についての分かりやすい「啓発資料の配布」

介護休暇の対象拡大

子の看護等休暇と同じように、介護休暇についても、労使協定による「入社6ヶ月未満の従業員の除外」ができなくなりました。採用されてすぐのスタッフであっても、家族の急な介護のときには、年5日(または10日)の介護休暇を時間単位で取得することができます。

早期情報提供の努力義務化

親の介護が必要になってから慌てて制度を探すのでは、心も体もいっぱいいっぱいになってしまい、「もう仕事を続けるのは無理だ」と離職を選んでしまいがちです。

そのため現行法では、従業員が「特定の年齢(たとえば40歳になって介護保険料の支払いが始まるタイミングなど)」に達したときに、会社から定期的に両立支援制度の情報を一斉に提供することが、努力義務として新設されました。前もって知識を持ってもらうことで、「介護が始まっても会社を辞めなくていいんだ」という安心感を持ってもらう狙いがあります。

企業に求められる実務対応と違反リスク

ここまでは法律の中身を見てきましたが、人事担当者としてやるべきことはなんでしょうか。ここからは優先順位の高い順に、3つのステップと、万が一対応を怠ってしまったときのリスクを整理していきましょう。

1. 就業規則の見直しと改定

何をおいても、まずは「就業規則(育児・介護休業規定)」のアップデートが最優先です。法律の基準に追いついていない就業規則は、たとえ社内で決めてあっても法律上「無効」になってしまいます。

具体的に、以下のポイントが最新のルールに書き換わっているか、今一度チェックしてみましょう。

□「子の看護休暇」を「子の看護等休暇」に変更し、対象を「小学校3年生修了まで」に広げる
□休暇の理由に「学級閉鎖」や「入園式・入学式などの学校行事」を追加する
□残業免除(所定外労働の制限)の対象を「小学校就学前の子どもを育てる従業員」に拡大する
□「3歳~就学前」の柔軟な働き方措置として、自社が導入する2つ以上のメニュー(時差出勤やテレワークなど)を明記する
□看護休暇・介護休暇の条件から「勤続6ヶ月未満の従業員を除く」という文言をカットする

就業規則を変更したら、スタッフ数が10人以上の事業場では、労働者の代表から意見書をもらって、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。

特に「柔軟な働き方措置」のメニューを選ぶときは、現場の業務が回らなくなってしまっては元も子もありません。各部門の責任者ともよく相談しながら、自社にとって無理のない、かつ従業員にとっても使いやすい組み合わせを選んでいきましょう。厚生労働省がネット上で公開している「育児・介護休業等に関する規則の規定例」をテンプレートとして活用すると、スムーズに作成できます。

2. 従業員への個別周知と意向確認の仕組みづくり

せっかく作った制度を形だけにしないために、妊娠・出産の申出や、介護の相談があったときの「社内ルール(運用フロー)」を決めていきましょう。

いざという時に人事や現場の管理職が慌てないよう、以下のようなツールをあらかじめ用意しておくのがおすすめです。

  • 「制度のご案内」パンフレット(案内書)の作成:
    休める期間、休んでいる間の社会保険料の免除、国から支給される「育児休業給付金」「介護休業給付金」など、従業員が一番気になるお金と期間の話を分かりやすくまとめた資料を作っておきます。
  • 「意向確認書」のフォーマット化:
    「休業を取りたい」「今回は短時間勤務だけを希望する」など、従業員の希望を客観的に記録できる書面やアンケートフォームを用意します。

ここで一番気をつけたいのは、面談をする側のハラスメント(マタハラ・パタハラ・ケアハラ)です。「本当に休むの?」「みんなに迷惑がかかるんだけどな……」といった、取得をためらわせるような発言は、法律違反になるだけでなく、従業員との信頼関係を致命的に壊してしまいます。人事担当者だけでなく、現場のリーダーや管理職のみなさんに対しても、「法改正で個別の確認が義務になったこと」や「面談時の正しい接し方」を、社内報やミニ研修などで伝えていくことが実務上とても大切です。

3. 育児休業取得状況の公表準備

常時雇用する労働者(正社員だけでなく、週の労働時間が長いパート・アルバイトも含みます)が300人を超える企業では、毎年のデータ公表に向けた準備が必要です。

実務の流れは以下の3ステップです。

  1. 自社の労働者数のカウント:
    自社が「300人超」の義務化対象に当てはまるかどうかを正確に把握します。
  2. データの集計:前の事業年度(たとえば4月1日~翌年3月31日)の間に、「奥さんが出産した男性社員の数」と、そのうち「育休や育児目的の休暇を取った人の数」を正確に計算します。
  3. インターネットでの公表:自社のWebサイトに掲載するか、厚生労働省の「両立支援のひろば」のサイトに登録して数値を入力・公開します。

公表の締め切りは「事業年度が終わってからおおむね3か月以内」ですので、3月決算の会社であれば6月末が一つの目安になります。もし数字が低かったとしても、それを隠すのではなく「これから取得率を上げるためにこんな取り組みをします」と前向きなコメントを添えることで、求職者に対して誠実な印象を与えることができます。

法令違反時の罰則と企業名公表のリスク

「日々の業務が忙しくて、法改正の対応が後回しになってしまっている……」という企業があれば、少し注意が必要です。育児介護休業法に定められた義務を無視し続けていると、非常に重いペナルティやリスクを背負うことになります。

まず、法律(第56条、第56条の2)に基づき、会社が適切な措置をとっていないと判断された場合、厚生労働大臣(または労働局)から「助言」や「指導」、さらには「勧告」といった行政指導を受けることになります。

そして、この国の勧告に対しても誠実に対応せず、違反状態を放置し続けた場合、最終的に「企業名の公表」という厳しいペナルティが待っています。

今の時代、労働法違反で国から企業名がインターネット上に公表されてしまうことのダメージは、言葉にできないほど大きいです。SNSなどを通じて「従業員を大切にしない会社」という噂があっという間に広まり、せっかく費用をかけた採用活動に応募者がまったく来なくなったり、今いる優秀な社員のみなさんが「この会社にいて大丈夫かな」と不安になって離職してしまったりする、最悪の連鎖を引き起こしかねません。

また、行政からの調査や報告の求めに対して、無視をしたり嘘の報告をしたりした場合には、法律(第66条)により20万円以下の過料(罰金のようなもの)が科される規定もあります。

さらに法律では、育休や介護休業を申し出たこと、あるいは短時間勤務を使いたいと言ったことを理由に、従業員を解雇したり、降格させたり、お給料を減らしたり、不利益な配置転換をしたりすることを「不利益取扱いの禁止」として厳しく禁じています。これに違反してトラブルになると、民事訴訟や労働審判に発展し、会社側が多額の損害賠償を支払わなければならなくなるケースもあります。

まとめ:法改正対応を形だけで終わらせないために

育児介護休業法は、少子高齢化と人手不足が進む今の日本において、企業が健全に生き残っていくための「最低限のルール」をまとめた法律です。2025年に段階的施行され、2026年現在で全面施行となっている最新の改正では、3歳から就学前までの柔軟な働き方措置の義務化や、中堅企業への育休取得率公表義務の拡大、そして介護離職防止のための個別周知義務化など、企業側の具体的なアクションがこれまで以上に強く求められる内容となっています。

しかし、人事担当者のみなさんに一番気をつけていただきたいのは、「就業規則を法律通りに書き換えて、案内書類を配っただけで満足してしまうこと(制度の形骸化)」です。

どれほど立派な就業規則を作り、魅力的な働き方のメニューを揃えたとしても、職場の雰囲気が「残業する人ほど偉い」「育休や介護で休まれると迷惑だ」という空気のままであれば、従業員のみなさんは怖くて制度を使えません。結局、「仕事と家庭の両立はここでは無理だな」と諦めて、会社を去っていってしまうでしょう。これでは、法改正対応のためにかけた時間もコストも、すべて水の泡になってしまいます。

法改正対応を形だけで終わらせず、会社にとってプラスの実績にするためには、制度を整えるのと同時に、「従業員が安心して制度を利用できる職場文化づくり」へ一歩を踏み出すことが不可欠です。例えば、

  • 現場のリーダーである管理職のみなさんを対象に、ハラスメント防止や両立支援の重要性を伝える研修を開く
  • メンバーが休んでも業務が回るように、仕事の属人化(その人にしか分からない状態)をなくし、マニュアル化やチーム内での共有(マルチタスク化)を進める
  • 性別に関わらず「お互い様の精神」でフォローし合えるような、前向きなコミュニケーションを推奨する

といった、地道な風土づくりが実は一番の近道ともいえます。

法改正への適切な対応と、働きやすい職場づくりをセットで進めている企業は、求職者の目から見ても「従業員を大切にする素晴らしい会社(ホワイト企業)」としてとても魅力的に映ります。それは、いま社内で頑張ってくれている優秀な人材の定着率をグッと高めるだけでなく、採用市場においてライバル企業に大きな差をつける、最大の武器になるはずです。

法律の義務をクリアすることをゴールではなく「スタートライン」と捉え、従業員も会社もみんなが笑顔で成長できる、素敵な両立支援の環境を一緒に作っていきましょう。

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Writer

ヒトキタ編集部 友坂 智奈


Profile

法人営業や編集職を経て、広報を担当。現在は、SNSや自社サイトの運用をはじめ、イベントやメルマガを活用した販促・営業支援企画も手掛けている。