北海道の最低賃金1,131円改定へ 「知らなかった」では済まない罰則リスクと10月給与計算の落とし穴

最低賃金罰則リスク

2026年(令和8年)10月1日、北海道の地域別最低賃金が改定され、従来の1,075円から1,131円(前年比+56円)へと引き上げられました。

10月に入り、「自社の給与設定は本当に新基準をクリアできているか」「10月度の給与計算で締め日・支払日のまたぎ対応は正しくできているか」と不安を抱えている北海道内の人事・労務担当者の方も多いのではないでしょうか。

最低賃金改定に伴う設定漏れや計算ミスは、意図的なものでなかったとしても最低賃金法違反(50万円以下の罰金)の対象となり、差額の支払いが義務付けられます。

本記事では、すでに新最低賃金がスタートした現在において、道内企業の人事担当者が「今すぐ行うべき緊急チェック項目」「誤解しやすい計算ルール」「10月給与計算の実務注意点」「社内賃金バランスの調整」について詳しく解説します。

目次

1.【10月1日施行】北海道の最低賃金1,131円(+56円)の要点と適用範囲

まずは、10月1日より施行された北海道の最低賃金改定について、あらためて基本構造とおさらいをしておきましょう。

改定の基本情報

効力発生日: 2026年(令和8年)10月1日〜(現在施行中)
改定後の最低賃金額: 時間額 1,131円(旧:1,075円)
引上げ額: 56円増

この1,131円という基準は、北海道内の事業場で働くすべての労働者に適用されます。正社員・無期雇用社員はもちろん、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員・嘱託社員、さらには「試用期間中」の労働者であっても一律で適用されます。

北海道内の労働環境と「1,131円」が及ぼす影響

北海道内では、札幌圏を中心とした再開発や観光・インバウンド需要の回復、物流・建設・飲食業界における激しい人手不足により、採用時の設定時給が年々高騰しています。

今回、最低賃金が56円という大幅な引き上げとなったことで、これまで「最低賃金よりは少し高く設定していた」という企業であっても、知らず知らずのうちに1,131円のラインに飲み込まれてしまっているケースの発生も考えられます。単なるパート時給の問題にとどまらず、会社全体の給与構造を見直すべきタイミングが訪れています。

2. 最低賃金を下回っていた場合の法的リスクと「不足分清算」のステップ

もし、社内の賃金データを点検して「1,131円を下回っている社員」が見つかった場合、会社にはどのようなリスクが生じ、どう対処すべきなのでしょうか。

1. 50万円以下の罰金と労働基準監督署からの是正勧告

地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合、最低賃金法第40条に基づき50万円以下の罰金が科される可能性があります。

「改定に気づかなかった」「給与システムの変更設定を忘れていた」といったうっかりミスであっても罰則の対象となり得ます。労働基準監督署の定期監督等で指摘された場合は是正勧告が出され、指導に従わない悪質なケースでは企業名が公表されるリスクもあります。

2. 風評被害と採用力の著しい低下

現代では、給料の不払いや最低賃金割れといったトラブルは、SNSや口コミサイトを通じて一瞬で拡散します。北海道内での採用活動において「あの会社は最低賃金以下で働かせていた」という噂が広まれば、求人を出しても応募が集まらず、既存社員の離職にも拍車がかかるという甚大な経営ダメージにつながります。

3. 無効となる契約と「差額の支給(追給)」義務

最低賃金額を下回る金額で労働契約を結んでいた場合、その部分は法律上「無効」となります(最低賃金法第4条)。無効となった部分は「最低賃金(1,131円)と同等の定めをした」とみなされるため、10月1日以降の労働分について、差額を過去に遡って支給(遡及払い)しなければなりません。

【万が一、下回りが発生していた場合の緊急対応手順】
1)10月1日以降の労働時間数を抽出する。
2)「(1,131円 - 実際の換算時給)× 10月1日以降の労働時間」で差額を算出する。
3)次回の給与支給時に「最低賃金改定に伴う清算金(差額調整)」として支給し、本人に通知する。

3.【今すぐチェック】時給制・月給制の正しい計算方法と「6つの除外手当」

「月給20万円だから大丈夫」と安心するのは危険です。最低賃金の判定では、支給されている総額から「除外すべき手当」を引き算して計算しなければならないためです。今すぐ自社の給与計算が正しいかチェックしてください。

給与形態ごとの判定方法

時給制の場合

基本時給が 1,131円 以上になっていれば適合です。10月1日以降のシフト分から確実に1,131円以上に切り替わっているか、タイムカードと給与マスタを確認してください。

月給制の場合(正社員・月給制契約社員)

月給制の場合は、以下の計算式で「時給換算額」を算出して比較します。

計算式例:
(月の基本給 + 対象となる手当)÷ 1か月平均の所定労働時間 ≧ 1,131円
【計算例】年間休日105日・1日8時間勤務(月平均所定労働時間:約173.3時間)の場合
1,131円 × 173.3時間 = 196,002.3円

つまりこの条件例では対象手当を除いた月給(基本給など)が 196,003円以上 なければ違反となります。

最低賃金の計算から除外しなければならない「6つの手当」

総支給額が20万円を超えていても、以下の6つの手当は最低賃金の計算対象から除外(手当分をマイナス)して計算する必要があります(最低賃金法第4条3項)。

1)精皆勤手当
2)通勤手当(実費支給・定額支給問わず除外)
3)家族手当(扶養手当など)
4)時間外・休日・深夜労働に対する賃金(残業手当、休日手当、深夜手当、固定残業代など)
5)臨時の賃金(結婚手当、祝金など)
6)1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与・ボーナス、決算手当など)

人事が陥りやすい「2つの見落としパターン」

パターン1:固定残業代を「月給」に含めて計算してしまう

「基本給17万円+固定残業代3万円=月給20万円」という設計の場合、固定残業代3万円は時間外労働の対価であるため完全に除外されます。判定対象は基本給の17万円のみとなるため、月平均労働時間173.3時間の場合は「時給約981円」となり、明確な最低賃金違反となります。

パターン2:基本給アップに伴う「固定残業代の相当時間数の減少」

最低賃金1,131円をクリアするために基本給を引き上げた場合、1時間あたりの基礎単価が上がります。これにより、既存の固定残業代の金額を変えないでおくと、「その固定残業代でカバーできる時間数(みなし時間)」が少なくなります。
雇用契約書で「〇時間分の固定残業手当支給」と時間を明記している場合、新しい基礎単価で再計算した金額が固定残業代を下回っていないか(みなし時間分の金額に不足が出ていないか)を必ず確認する必要があります。

4. 10月給与計算で失敗しないための実務対応ポイント

10月1日の施行を跨ぐ「10月度の給与計算」は、年間を通しても最もミスが発生しやすい業務の一つです。人事担当者は以下の実務ポイントを必ず点検してください。

ポイント1:「締め日」と「支払日」による切り分け

10月1日を跨ぐ給与計算期間(例:9月21日〜10月20日締め、10月25日支払など)の場合、実務上の対応は以下の2パターンに分かれます。

パターンA(日割り計算する場合):
9月21日〜9月30日分の労働 = 旧単価(1,075円以上)
10月1日〜10月20日分の労働 = 新単価(1,131円以上)
※労務管理上、最も正確な方法です。

パターンB(10月締めの全期間を新単価にする場合):
9月21日〜10月20日分すべての労働 = 新単価(1,131円以上)
※企業側が労働者に有利な条件(全期間新単価)を適用することは法律上問題ありません。給与計算の手間を減らすため、10月度給与全体から新単価を一括適用する企業も多く見られます。

ポイント2:社内賃金バランス(格差)の調整とモチベーション対策

最低賃金が56円上がったことで、新入社員やアルバイトの給料が引き上げられた一方、「数年勤めているベテラン社員や中堅正社員の給与が据え置き」になっているケースがあります。

これにより「新人とベテランの時給が数円しか変わらない」「責任の重い中堅社員のモチベーションが低下する」といった社内格差問題が発生します。コンプライアンスのクリア(1,131円以上への引き上げ)が完了した後は、他階層のベースアップ(ベア)や役職手当の見直しなど、社内全体の賃金体系の再設計に取り組みましょう。

ポイント3:契約書の巻き直しと就業規則の周知

昇給を行った従業員に対しては、変更後の賃金が記載された「労働条件通知書(賃金改定通知書)」を速やかに交付し、周知を行います。

また、基本給の改定に伴い就業規則(賃金規程)を変更した場合、常時10人以上の労働者(パート・アルバイト含む)を使用している事業場では、所轄の労働基準監督署へ変更届と意見書の提出が法律で義務付けられています。(※10人未満の事業場は任意)。

5. 今からでも活用できる!賃上げに関する政府・自治体支援(助成金)

10月1日の改定後であっても、今後の賃金引き上げや設備投資に対して活用できる助成金制度が存在します。人件費の負担軽減と生産性向上のために、以下の制度の活用を検討してください。

業務改善助成金(事業場内最低賃金の引き上げ)

中小企業・小規模事業者が、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を引き上げ、同時に生産性向上に向けた設備投資(例:POSレジ、調理自動化機器、業務管理ソフトの導入など)を行った場合に、費用の一部を助成する制度です。

助成率:対象費用の最大90%(10分の9)を助成(※事業規模や引き上げ額等の条件による)
特長:導入費用の大部分を国が支援してくれるため、人件費増への対応と業務効率化を同時に進められます。

厚生労働省 令和8年度業務改善助成金のご案内

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

有期雇用労働者やパート・アルバイトの基本給を定めた賃金規定を改定し、基本給を3%以上引き上げた場合に助成金が支給される制度です。
ポイント: 事前に「キャリアアップ計画書」を提出し、計画に基づいて賃金規定を増額改定して運用することが条件となります。

厚生労働省 キャリアアップ助成金

北海道内の無料相談窓口

助成金の申請要件や、改定に伴う就業規則の変更実務に不安がある場合は、道内の公的機関を積極的に活用しましょう。

北海道働き方改革推進支援センター:社会保険労務士などの専門家が、賃金体系の見直しや助成金申請について無料で相談に乗ってくれます。
北海道労働局・各労働基準監督署:最低賃金の適用基準や手当の除外範囲など、個別の法令判断について確認できます。

まとめ:施行後こそ点検を。適切な賃金管理で道内での採用・定着を強みに

2026年10月1日よりスタートした「北海道最低賃金1,131円」は、すでにすべての道内企業に適用されています。

まずは自社の10月度給与データ(特に手当の除外計算、固定残業代、試用期間中の賃金)を徹底的に再確認し、設定漏れや違法状態がないか点検してください。万が一不備が見つかった場合も、迅速に差額調整と契約の改定を行えばトラブルを未然に防ぐことができます。

適切で透明性の高い賃金管理を行うことは、法令順守だけでなく、「安心して長く働ける企業」として北海道内での採用力・定着率を高めるための最も強力な武器となります。

※本記事は2026年10月時点の情報に基づき作成されています。実際の労務運用や助成金申請にあたっては、厚生労働省および北海道労働局の最新発表をご確認ください。

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Writer

ヒトキタ編集部 ヤマモト


Profile

コンテンツメディア部にてユーザー向け施策の企画・サイト運営に従事。フリーペーパー編集などを手掛け、現在は広報・販促・営業支援・デザインを行う。