
日本人の2人に1人ががんになるといわれる時代。従業員から病気について相談を受ける可能性は決して小さくありません。人手不足感が強まる今だからこそ、治療を受けながら働き続けられる職場づくり、「両立支援」について考えてみませんか。
今回は、職場の産業保健に関するさまざまな相談や、地域に則した産業保健サービスを提供されている北海道産業保健総合センターの保健師・鳴海志織さまに、治療と仕事の「両立支援」について、お話を伺いました。
目次
「迷惑がかかるから」と離職を選ぶ労働者
北海道産業保健総合支援センター(以下、さんぽセンター)の調査(※)によると、労働者から治療と仕事の両立について相談を受けたことがある企業は全体の1/3に上ります。
相談の多い疾病: 「がん」が最多(52.2%)
主な相談内容:
・治療に伴う休暇について(81.9%)
・仕事の継続(62.1%)
・体調による業務の調整・変更(55.8%)
※北海道内の事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインの認知度調査/2019年〜2021年
病気を抱える労働者は「会社に迷惑がかかる」「仕事をしながらの治療は難しそう」などの理由で離職を選ぶケースも多く、労働力の維持やモチベーション向上という側面からも両立支援の考えが注目されつつあります。
仕事と治療の「両立支援」とは?
両立支援は、がんや脳卒中、心疾患などで継続的な治療を必要とする人に、治療と仕事を両立できるように支援する取り組みです。
労働者から病気の治療が必要になったと申し出があっても、安易な対応はかえって両立を困難にすることもあるため、あらかじめ社内に両立支援制度等の仕組みを整えたり、「両立支援コーディネーター」の有資格者を育成するなどの準備が重要となっています。
さんぽセンターの前述の調査によると、両立支援のためのガイドラインについて「内容は知らない」と回答した企業が9割に上り、道内では認知が進んでいないのが現状です。両立支援制度は社内に作らなければならない(罰則を有する)制度ではありませんが、求職者が「どのような職場で働きたいか」と考えた時に、社員を大事にしてくれる職場かどうかは大きなポイントになるでしょう。
企業が取り組む3つのメリット
両立支援は単なる福利厚生としての位置づけではなく、企業経営にとっても重要な考え方を示すものだといえます。 企業として取り組む具体的なメリットには、下記の3つが挙げられます。
| ●優秀な人材の確保・定着 |
闘病との両立に悩む従業員が離職せずに働き続けられる環境を提供することで、人材の流出を防ぎます。特に、中堅層など専門性の高い人材の定着に繋がるでしょう。 |
| ●生産性の向上 |
短時間勤務やテレワーク、フレックスタイム制度、ラッシュアワーの混雑を避けての通勤など柔軟な働き方を導入することで、効率的な業務運営を促します。 |
| ●企業イメージの向上 |
両立支援に取り組む企業姿勢が、「働きやすい会社」として、採用活動にけるブランディング強化にも繋がります。 |
まずはここから!会社ができる4つのステップ
最初は、仕事と治療の両立支援を行うための環境を整えるところからはじめましょう。
職場がそのような取り組みをしていることを従業員に知ってもらうために「事業者による基本方針等の表明と従業員への周知」が不可欠です。
社内体制の整備に向けて
(1)治療と仕事の両立支援について情報収集をする
→事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(厚生労働省)、治療と仕事の両立支援ナビ(ポータルサイト)、さんぽセンターなどを活用する
(2)支援制度を点検する
→両立のために活用できる社内制度(休暇制度や勤務時間規程など)を洗い出す
(3)社内で情報を共有する
→両立支援に役立つ制度を周知。社内の両立支援制度が整えば併せて周知する
(4)風通しのよい職場づくりをする
→相談しやすい環境の整備、相談窓口を明確にする、誰かが休んでもフォローできる体制づくりをする
今すぐにでも取り組んで!社内の両立支援制度作りの重要性とは?
ルールが未整備のままその都度対応を行うと、現場の混乱や不信感を招く原因になります。
具体的には、以下のような深刻な影響が懸念されます。
制度作り・環境整備が不十分なことによる悪影響
●個別対応により不公平感が生まれやすい。
『Aさんのときは長く休ませていたのに』
『Bさんのときは収入が減らないように調整してくれたと聞いたのに』
●人事労務の担当者が替わって、対応の統一が難しくなる。
●制度を作るのに時間がかかり、利用できる状態になるのが遅い。
従業員の病気が発覚してから整備する場合、その方への支援を急いでしまい、特定のケースに合わせて制度を作り、結果的に汎用性に乏しくなるという可能性も少なくありません。いつ申し出があっても慌てないように、優先順位を上げて事前に準備をしておくことが重要だと言えます。
従業員に「病気が発覚したので辞めたい」と言われたら?
病気が発覚した方は、混乱からすぐに退職を選択することも少なくありません。しかし、退職してしまえば収入が絶たれ、治療費やその後の生活費など、経済面に支障が出てくる場合も。それから無事に治療が終了しても、再就職できるかどうかが不安材料になってきます。
従業員の離職によるさまざまな知識やノウハウを失うことは、企業にとって大きな損失です。
病気が発覚した従業員の退職を防ぐための具体的な対応
- 本人の気持ちを受け止め、辞めずに休業・休職するように伝える
- 治療しながら働ける社内制度の活用を提案する
まずは本人の気持ちを受け止め、辞めずに休業・休職するように伝えましょう。その上で、治療しながら働くことのできる社内制度を活用するように提案しましょう。
復帰の仕方や退職については、判断は後からしても遅くはありません。いきなり退職してしまわないように、働きかけることが大切です。入院・治療中は病気をはじめ、さまざまなことが不安になったり心配になるものです。そうした状況で企業が従業員の不安や悩みを聞き、受け止めることは、本人の治療や復帰への意欲にもつながります。
さんぽセンターでも、雇用者向けに相談や個別訪問、両立支援の進め方などを伝えるセミナーを無料で実施しています。お困りのことがありましたら、まずはご相談ください。「病気になっても、制度があるから大丈夫。安心して治療してね」 道内の働く皆さんが職場でそう声をかけてもらえる、温かい環境を広げていきたいと思っています。
北海道産業保健総合支援センター
産業医学やメンタルヘルス、労働衛生工学等の専門スタッフが、産業保健に関するさまざまな問題について、窓口相談、電話、FAX、Eメールにて無料で相談に応じています。※なお診療、カウンセリング等は行えません。
電話:011-242-7701
利用時間:平日8:30~17:15※土曜・日曜、休日・祝日、12/29~1/3は除く
https://www.hokkaidos.johas.go.jp/consultation/
Writer
ヒトキタ編集部 庵 彩乃
Profile
札幌・函館・北見エリアの求人営業を経験後、現在は採用お役立ち記事の制作や自社メディア・イベントの販促、企業向けマーケティングを担当。